2001年の東大入試英語、大問1の要約問題でトマス・カーライルの『衣装哲学』の一節が引用されます。
"no meanest object is insignificant; all objects are as windows, through which the phylosophic eyes looks into Infinitude itself."
「どんなつまらないものでも、無意味なものはない。物はすべて、窓の役割を果たすのであり、その向こうには、哲学する目からは無限そのものがのぞけるのである。*1」。
と訳せます。
もしこの問題をきっかけに『衣装哲学』に興味を持って、原文で読もうと試みたら、一番最初に出会う冒頭の一文で篩(ふるい)にかけられるはず。
実際に本文の冒頭を見てみよう
ということで、ある程度英文解釈に自信がある受験生(高校生や浪人生)は、私と一緒に是非とも英文解釈の問題としてチャレンジしてみてほしい。
では肝心の冒頭一文を見てみよう!
ここで初めてピリオド登場!
つまり冒頭の一文が恐ろしく長いのです。
あ~あ、骨が折れそうだわ。
概観の把握を試みよう
実力でやってみたい人は、ここは読み飛ばしてください。
まず結論として、どのような構造かを示してみたいと思います。
英文と和訳文の各色は当該箇所と対応しています。
Considering our present advanced state of culture, and how the Torch of Science has now been brandished and borne about, with more or less effect, for five thousand years and upwards; how, in these times especially, not only the Torch still burns, and perhaps more fiercely than ever, but innumerable Rushlights, and Sulphur-matches, kindled thereat, are also glancing in every direction, so that not the smallest cranny or dog-hole in Nature or Art can remain unilluminated,—it might strike the reflective mind with some surprise that hitherto little or nothing of a fundamental character, whether in the way of Philosophy or History, has been written on the subject of Clothes.
「Torch of Science」「Rushlights」「Sulphur-matches」など、
火に関するものが大文字なので、比喩として用いているのかな~など、書き手の意図を慮らずにはいられません笑。
手順①
ず~~~~っと読んでいくと、
「Considering~ +V~」ではなく、「Considering~, SV~」となっています。
特に倒置してそうな不自然な箇所もありません。
なので、このConsidering~は動名詞ではなく分詞構文であることが分かります。
手順②
準動詞(分詞構文)のconsideringの目的語は、赤・青・緑の三色です。
青と緑は「how+SV~」の間接疑問文として名詞節を形成し、Consideringの目的語に。
特に緑では「not only A but (also) B」の構造のせいで長くなっています。
「,so that」はセオリー通り「目的」ではなく「結果」で訳すとしっくりきます。
手順③
ー(ダッシュ)の直後のitは形式主語で、that節が真主語です。
ここからやっと主節がはじまります。
薄紫と薄ピンクは、that節中の修飾句です。
対照するための補助としての和訳
我が国の文化の現在進んでいる有様を、そして学問の炬火がもう二千五百年(原文ママ)以上もの間振りかざされ担ぎまわされて或る程度の効果を挙げていることを、特に近頃はその炬火が、相変わらず、いな恐らく愈々勢猛に、燃えさかっているばかりでなく、それから火を分けて貰った数限りもない燈心草蝋燭や擦附木も亦四方八方に閃めいていて、自然界芸術界のどんなにちいさい隙間も小穴も光の及ばぬ所はないことを、考える時には、衣服の題目に関して、哲学の方面でも歴史の方面でも、基本的の書物が今以て殆ど書かれていないことは、心ある人に多少奇異の念を感じさせるのが当然であろう*3。
●rushlight(燈心草蝋燭):candle(蝋燭)の一種。rushは「急ぐ」「多忙」などのほかに「藺草(イグサ)」といった意味があります。蝋燭の芯として藺草の髄を用いた細めの蝋燭のことですね。
●sulphur match(擦附木):普通に「黄燐マッチ」で訳しても無問題。matchをマッチとそのまま訳さずにわざわざ「擦附木」とするあたりに、時代の違いを感じるわ~。
●何で5000年ではなくて2500年なんだろう?
ちょっとずつ見ていこう
以下のような記号を用いています。
- [ 名詞句/名詞節 ]
- <形容詞句/関係詞節>
- ( 副詞句/副詞節 )
日本語は、mikanketsuが少し砕いて補足しました。
超絶な要約をしてしまうと、
「時代と学問の影響力を考えたときに、哲学や歴史の分野なんかで『衣服』というテーマで書かれた書物がまったく無いことってビックリだよね!」
という始まり方ですね。
Consideringの目的語1つ目
Considering [our present advanced state of culture],
訳『[文化の現在進んでいる状態]を考えると、』
Consideringの目的語2つめ:間接疑問文「how+S+V」1つ目
Considering [how the Torch of Science has (now) been brandished and borne about, (with more or less effect), (for five thousand years and upwards)];
訳『[「学問の炬火(きょか=たいまつ)」が(もう5000年以上もの間)どのように振りかざされ担ぎまわされて(多かれ少なかれ効果を挙げて)いるか]を考えると、』
Consideringの目的語3つめ:間接疑問文「how+S+V」2つ目
Considering [how, (in these times) (especially), not only the Torch (still) burns, (and perhaps more fiercely than ever), but <innumerable> Rushlights, and Sulphur-matches, <kindled (thereat)>, are (also) glancing (in every direction), (so that not the smallest cranny or dog-hole <in Nature or Art> can remain unilluminated)],
訳『[(特に)(近頃は)その「炬火」が(相変わらず)、(そしてひょっとすると今までより激しく)どんなに燃えさかっているかばかりでなく、<(そこで)火を焚きつけられた><数えきれない>「ロウソク」や「マッチ」も(また)(四方八方に)どんなに閃めいていて、(その結果<自然界芸術界の>どんなに小さい隙間も小穴も 光の照らされない ままではない)か]を考えると、』
thereatは「there at」であり、一瞬threatと空目してしまいます。
辞書ひいたら古くて固い単語なようで、高校生が知っているとは思えないよ。
勉強になるなぁ~(白目)
主節:形式主語構文(仮主語構文)
[it] might strike the reflective mind (with some surprise) [that (hitherto) little or nothing of a fundamental character, (whether in the way of Philosophy or History), has been written (on the subject of Clothes)].
訳『[(衣服のテーマに関して)、(哲学の方面でも歴史の方面でも)、基本的な書物が(これまで)殆ど書かれていないこと]は、(驚きを伴って)思慮深い心を 打つのも当然であろう。』
倒置などは起こってないし、障壁は単語がちょっと厄介なのと長くて面倒くさいくらいかな?
【超難問】ではないにしても、やはり正確な把握は難しいので【難問】です。
私も間違っている箇所があるかもしれないので、「これちがくね?」というのがあれば教えてください!