映画「パプリカ」から今敏✕平沢進の組み合わせにドップリはまってしまった。
「千年女優」は当時ネットで配信されているサイトが無く、ディスク購入しか視聴の手段がなかった(今はNetflixやYouTubeムービーで見られるようですね)。
そんなわけで、ついに買った。
届いた! pic.twitter.com/73oJCnxXPm
— mikanketsu (@mikanketsu) 2018年12月12日
このページでは、チャプター毎に分割したあらすじと感想を紹介。
あらすじは黒文字で、私の感想や考察は青文字で書いてあるのでご参考に。
わりとがっつりネタバレしているので、原作未視聴の方は閲覧にご注意を!
作品あらすじ
女優・藤原千代子はかつて一世を風靡した銀幕の女王。
※銀幕:映画スクリーン
この「千代子」の人生を覗いていくのがこの作品の大きな流れ。
千代子は三十年前に忽然と表舞台から姿を消して、人里離れた山荘で暮らしていた。
そして彼女の元に、とある「鍵」が届けられるところから物語が進んでいく。
届けたのは、ドキュメンタリー制作を企画する映像制作会社の「立花」という男。
なぜ千代子は女優を引退したのか。
届けられた「鍵」とは一体何なのか。
立花という男は何者なのか。
現実と記憶が交錯して映像が展開されながら、ひとりの女性の生涯と強い思いを描いた作品。
ストーリー紹介と感想
人を選ぶアニメ映画であることは確実。
作風や世界観が気になる人は、目次にある「★」のチャプターだけでも見て適性を検討してほしい。
派手なアクションは無いし、大団円で終わることもない。
ひとりの女性の人生を垣間見ながら、その生き方や貫く想いを「感じて」楽しむ映画作品となっている。
- 「時間の儚さと長さを感じたい」
- 「人生について想いを馳せたい」
- 「自分の現在の生き方・生き様を考えたい」
というような人は、きっとこの世界観に浸りながら楽しめるはず!
「藤原千代子」の人生も「立花源也」の人生にも共通しているのが、誰かの存在無しにはその人の人生は語れないということだ。
自分が死ぬときに後悔しない人生とは、どんな人生だろう?
考えながら、感じながら、自分と対話するように私はこの作品を鑑賞した。
1:プロローグ(見果てぬ夢)
ロケットに乗る千代子のシーンから始まる。
「千年女優」というタイトルのイメージとは大きくかけ離れていて、最初はきっと戸惑うはず。
月面からの発射準備のシーンは、まるで睡蓮のよう。
実はこのシーン、最初から壮大な伏線となっており、2週目に視聴すると今敏監督による作中の"メタファー"や演出技法に感嘆することとなる。
2:オープニング
タイトルが映るシーンにて巻き戻しされている背景は、これから展開される物語の伏線となっている。
と同時に、立花源也がインタビューで作成し完成したドキュメンタリーとなっている!
かつて千代子がいた銀映撮影所の閉鎖に際して、ドキュメンタリー制作を企画している「立花」とカメラマン「井田」が千代子の山荘を訪れる。
そして立花の手から千代子へと「鍵」が渡されて、思い出を辿る物語がはじまる。
2週目以降に見ると、このような千代子の人生がひとつのドキュメンタリーとして後世に残る形とした立花の仕事に安心するし、私もこのような後世への「仕事」をしたいと常々感じざるを得ない。
3:千代子誕生
インタビューが始まり、綿密な静止画によって女優にスカウトされるまでが簡潔に描かれる。
株式会社銀映の専務と千代子の母のやり取りが始まる瞬間から、この映画の記憶と現実が交錯していく。
4:邂逅
千代子が一生かけて追うこととなる「鍵の君」が登場。
後に判明するが、彼は民権派の思想犯として官憲に追われる身。
その行く手をこれからひたすら遮る「傷の男」も同時に登場する。
なにより、千代子が乙女をしているのが可愛い。
頬を染めたり、顔真っ赤にしちゃったりなんかして。
千代子は「一番大切なものを開ける鍵」を受け取ることとなるのだが、本当は何を開けるものかは千代子はわかっている。
一瞬、男の持ち物が映るのだから。
でももう一度会いたいから、千代子は答え合わせを明日に引き延ばした。
そして千代子の人生を通じて、開ける対象となる「一番大切なもの」が構成されていく。
5:★君を慕いて
血の包帯を見つけると、急かすピアノのBGMが鳴る。
蔵に匿(かくま)っていた鍵の君が見つかって、駅へ行ったそうだ。
雪の中疾走する千代子は睡蓮の花言葉「純真」を彷彿とさせる。
そしてこれがモチーフの銀幕作品があることに視聴者が気づき、さらに現実と記憶が混交する。
銀幕作品のタイトルはチャプター名と同じく「君を慕いて」。
6:傷痍の勇士
今度は「傷痍の勇士」という作品の記憶と重なる。
鍵の君を追うため、女優となって満州へ渡る千代子。
同時に、株式会社銀映の専務の甥である「大滝」に目をつけられる。
そして白衣の千代子は、鍵の君を追う自分と役を重ねて、名演技の片鱗をみせる。
そして有名なセリフ「一目あの人に逢いたいんです」。
そして詠子と大滝がなにやら企んでいるような、不穏な動き。
これも千代子の人生に影響を与える出来事の伏線。
7:馬賊襲来
占い師の言葉を信じ、撮影を放っぽいて北へ向かう千代子。
ピストルを持った馬賊が、千代子の乗る列車を襲う。
少々自分勝手なこの行動力は、千代子の純真無垢さと鍵の君への想いの強さを視聴者に思わせる。
8:あやかしの城
列車の扉を開けて脱出すると、舞台は満州から一転して時代も遡って日本へ。
「あやかしの城」では殿を救おうと追う姫の役。
あやかしはチャクラを思わせる糸車を回す姿で現れ、千代子に呪いをかける。
糸車は解脱できない輪廻の呪縛を表象するもので、千代子の何かを呪縛することが暗示されることが読み取れる。
老いの炎に身を窶(やつ)す呪いは、作品中だけでなく、現実の千代子を縛り付けることに。
9:紅の華
殿を助けるために立花と馬に乗る。
ここもこの逞(たくま)しい千代子のシーンが有名だろう。
一旦現実のインタビューの世界に戻され、ここでこの映画の描くもの、描くシステムが視聴者に浸透していく。
明確な境界線は描かれず、水の中に絵の具を垂らしたマーブリングのように、濃淡のある範囲を描く。
明確な境界がないことは視聴者の理解を難しくするが、その代わりに想像力を喚起し、複雑な事象を芸術的に描くことが出来る。
映画を視聴している時間、視線、頭の中、心を委ねて「千年女優」の世界観に浸かってみよう!
10:千代子の忍法七変化
ここではアクション活劇が挿入され、ハラハラするようなカメラワークで我々視聴者を作中作の目まぐるしい世界に没入させる。
千代子の演じる役柄に共通しているのは、やはり愛する人を追うこと。
11:島原純情
忍者から一転して花魁の役を演じる。
場面が突然変わったように感じるが、千代子の愛する人を追う気持ちは途切れておらず、現実には戻らない。
そして「あやかしの城」のあやかしがここにも現れてくる。
着実に千代子の人生が縛られていく。
12:雪の絶唱
「鍵の君」が登場し、顔が明らかになる。
千代子がはじめて鍵の君と出会ったときと重なって、やはり彼は追われ人。
初めて会った時と同じように、「傷の男」が彼を追いかける。
別れ際に鍵の君は、千代子と蔵で再び落ち逢おうと囁く。
再び、約束したあの蔵で千代子と鍵の君は会えるのだろうか。
13:★明治の風
作中一二を争うぐらいに見所な疾走シーン。
千代子が馬に跨がってから、明治の鮮やかな時代を駆け抜ける爽快感ったらない。
馬に乗った千代子が版画的な世界を駆け抜ける平面的な構成が美しい。時代は江戸から明治に移っていき、乗り物も馬から人力車を経て自転車となる劇的な進化をとげる。
(千年女優「千年手解」より)
そして「大戦の痕跡」へと接続する。
14:大戦の痕跡
有名な蔵の絵のシーン。
戦争は全てを焼け野原にして、街や家や人を容赦なく破壊して奪い去っていく。
瓦礫だらけの蔵の跡地の中で、千代子は見つけるべくして「それ」を見つける。
彼は千代子の絵を描いていたのだ。
思わず私も「おお!」と声を上げてしまった。
ここが印象に残っている人は多いと思う。
15:銀幕のマドンナ
戦後の復興期、映画は日本人の心を元気づけた。
多忙な生活とともに仕事をこなしていくと、千代子は銀映を代表する大女優となっていく。
経験を積んで大女優となることは、幼さと純真さを失いつつ、成熟するということでもある。
それでも鍵は首から提げているし、蔵の絵も大事に額に入れておく千代子だった。
16:夢の終焉
千代子は「鍵」をなくす。
それは夢追い人の終わりを意味するように、最初は尾を引かれながらも、結局千代子は「大滝」と結婚する。
しかし結婚後、大滝の部屋から「鍵」が見つかる。
実は千代子と結婚するために、大滝と詠子らの計略で隠されていたのだった。
他人の思惑や嫉妬に影響されるのも、また「人生」なのだと思わされる。
17:★千年の疾走
なんの因果か、鍵を見つけ出したら、「鍵の君」を追っていたかつての官憲「傷の男」が老いた姿で贖罪しに千代子の前に登場する。
時を超えて、鍵の君から手紙をもらうと、そこに両者の「想い」が溢れ出る。
千代子は疾走し、場面も今までの現実世界と作中世界が錯綜する。
鍵の君の絵を見た千代子は、現実なのか虚構なのか...
この疾走シーンの錯綜・混交が気持ちいい。
18:ダ・カーポ(Da Capo)
「冒頭に戻る」という音楽用語よろしく、場面は冒頭プロローグの月面発射のところ。
また地震が起こって千代子は危険な目に遭うが、かつての「立花」が千代子を助ける。
インタビュアーの立花は、千代子の命の恩人だったのだ。
「千年女優」は千代子の生涯に焦点を当てた作品といえる。
だからこそ千代子の周りの人々の人生も必然的に描かれることになる。
この映画は、誰もが当事者として自分が主役の人生を歩んでいるのだという当然の事実を顕在化し、白日の下に晒すのだ。
それでもなお、自分の人生の主役は自分であっても、他人の人生から見た自分は脇役に過ぎないことを私たちは知っている。
立花源也の人生は、もう藤原千代子の存在無しでは語れないのだ。
助かったものの、ふと見たヘルメットに映る自分の姿はかつての蔵の絵の若々しい自分ではない。
あのあやかしの呪いが、ここで千代子に直面するのだ。
再び鍵は千代子の手を離れて、女優も引退することとなる。
また鍵を手にするのは、立花がこのインタビューをするまでの三十年後だ。
19:女優の生涯
現実世界に戻ると、千代子は今までの人生を総括する。
あやかしの正体。
引退の理由。*1
千代子にとっての「鍵」。
人生のクライマックスとともに、この作品もクライマックスに向かっていくのが嫌でも感じられるだろう。
私(筆者)は感じたよ。
20:エピローグ(映画の死)
大滝は、老いた「傷の男」から「鍵の君」の行方を聞かされていた。
傷の男が鍵の君を拷問で殺していたのだ。
千代子はずっと、逢うことができない幻影を追って生きてきたことになる。
千代子の人生の幕が下りようとすると、賛否両論あり色んな考え方ができる一言でこの映画は締めくくられる。
「だってあたし、あの人を追いかけている私が好きなんだもの」*2
21:エンディング
「ロタティオン(LOTUS-2)」*3は今敏監督が亡くなった際、出棺で流れた曲であることは有名。
千代子のラストのセリフから一呼吸おいて流れるEDを是非感じて欲しい。
きっと印象が変わるはず。
受賞について
●第5回文化庁メディア芸術祭 アニメーション部門 大賞受賞
(同時受賞作品『千と千尋の神隠し』)
同時受賞が宮崎駿の「千と千尋の神隠し」だと、そっちが話題として大きく扱われちゃうよなぁ~
蛇足だけど、「文化庁メディア芸術祭」はニコニコのタグで巡回すると面白い作品に出逢えることがあるからオススメ。
●第33回〈スペイン〉シッチェス映画祭 最優秀アジア映画作品賞受賞 ORIENT EXPRESS AWARD
●第6回〈カナダ〉ファンタジア映画祭 最優秀アニメーション映画賞 芸術的革新賞受賞 BEST ANIMATION FILM THE FANTASIA GROUND-BREAKER AWARD(For Artistic Innovation)
簡単な考察
Q.結局「鍵」って何だったの?
A.本当は「鍵の君」の荷物を開けるための鍵。
しかし千代子が譲り受けて、身につけていたり手放したりすることで、「鍵の君」の想いを想起させるトリガーとなっている。
「『一番大切なもの』を開ける鍵」。
千代子にとって「一番大切なもの」は、その強く一貫した鍵の君への思いであり、その思いは演技力にまで影響を与えて、大女優と呼ばれるまでに「藤原千代子」の人生を形作った。
実際、三十年越しに鍵が千代子に届けられると、忘れかけていた「鍵の君」の記憶が開かれた。
最後に
作品の概要を購入前に知りたかったのが、このページを書いたきっかけだ。
本筋と離れているサイトページや、誤字ってて「藤原千代子」が「篠原千代子」になってしまっているサイトページがトップにある中で、自分が有益なものを作れないかと考えたのがこの記事のきっかけ。
今敏監督の他作品との比較や、監督の言葉を深掘りするともっと「千年女優」を楽しめるはずなので、加筆する可能性は大。
というわけで、このブログが少しでも今敏監督の「千年女優」に興味がある方の役に立てていれば幸い。
さて、ここまでの自分の人生を振り返ってみよう。