母校の高校からすぐ近くの場所に、とある個人経営の熊本ラーメン屋『都来(とらい)』があった。
まだ高校生だった頃、弁当を持参しない日はよくそこで昼食をとっていた。
やはり高校との距離が近いせいなのか、ここのラーメン屋は高校生の財布にはありがたい価格設定をしている。
学割の価格はラーメン1杯ワンコインでお釣りが来るものだ。
部活帰りに寄ると、タイミングによっては教師がそこで麺を啜っている姿を見ることもあった。
高校に入学して最初の一週間くらいは、ほとんどの学校ではいきなり授業ではなくオリエンテーションや校舎案内のような期間が設けられているだろう。
その期間、高1の我々に対して諸先輩方が熱く語るのは、部活の勧誘でも学校の紹介でもなく、ラーメンであった。
なかでも『都来』はどの先輩からも語られる。
当然の流れとして、新しいクラスメイト同士で早速その店に赴くのだ。
それまでラーメン屋に入るには勇気が必要で、ましてや個人経営の店というのは経験がなかった。
都来のラーメンは好みが比較的分かれそうではあるが、私にはドンピシャではまった。
一時期は三日に一度のペースで通っていたこともあり、そこから他のラーメンにも興味を持ち始めてしまって、かなり太ってしまったのが懐かしい。
ペースは落ちたが、それでも高校の近くを通る用事がある際には卒業後にも立ち寄っていた。
もうすぐ私は就職に伴って引っ越しする予定のため、今以上にこの味を堪能する機会が減ってしまうのが残念でならない。
昨日久しぶりにそのラーメンを味わい、今日この文章を書いている。
初めて訪れたときから食券機は新しいものに替わっているし、値段も当時から少しずつ上がっている。
トッピングも変化していて、店主のおじさんの試行錯誤が垣間見える。
それでも学割の価格は依然としてワンコインでお釣りは来るものだし、未だに母校に関するポスターが壁に貼られている。
都来のラーメンが、私の母校や地元を私に想起させる味の一つとなったことは間違いない。
しばらくして、都来がなくなったことを知る。
移転して東我孫子で「とらい」という居酒屋を営んでいるらしい。
あの黒マー油の浮かぶ熊本ラーメンの味がもう堪能できないのは悲しいけれど、店主のおじさんが未だにご存命で、お仕事を続けていらっしゃるのは嬉しい。
帰省する際に、足を伸ばしてお酒とともに料理を頂こうかな。